お仕事がはじまる前に、お部屋を整頓しています。
以前検討していた、世界旅行の資料が出てきました。
時間をかけて、地球を一周廻る旅。
真剣に、行こうと思っていました。
かつての私は、どこにも行かれませんでしたから。
世界のほとんどを見ないまま、何も知らないまま、終わってしまって、もうあとはゆっくり朽ちていくだけ、という状態でしたから。
だからそのあと、動かせるからだを与えられたときに、いろいろなものを見てみたいと思ったのです。
できるだけたくさんの国を巡って、すこしでも多くのことを知りたいと思ったのです。
すこし懐かしんだあと、資料をごみばこに入れました。
きっと、行くことはないのでしょう。
私は、世界のほとんどの国を見ず、数多くの方にお会いしないまま、生涯を終えるのです。
そうなることが、今はあまり怖くありません。
私の見ない国の美しさは、ほかの誰かが見てくれています。
美しいものは、ここでないどこかでなく、いつだって目の前にあるのだと思えます。
だから資料を処分して、すこしだけ窓を開けて、今夜の月を探します。