「ごくまれに、他者から深く強く影響を受けることがあります」
「ふうん」
「そうなると、その方がいない場所でも、なにかに遭遇するたびについつい『あの方ならどのように対応するだろう、あの方なら何と言うだろう』と考えてしまいます」
「ほう」
「自分の内側にその方が常にいる状態で、しかしそれは『私の思い浮かべるその方』であって、その方とは異なる影に過ぎません」
「そうだね」
「誰かの影を見続けるのは、その誰かの不在を確認すること、自分がひとりであることを常に意識することでもあるので、寂しいものです」
「ううん」
「しかしながら一旦そこまでの影響を受けてしまうと、最早容易にはそれを意識から外すことも叶いません」
「そうなの?」
「例えるなら、気付かないうちに常時起動のアプリケーションが勝手にインストールされていて、アンインストールもできなくて、削除しようにもレジストリに山ほど書き込みされていて手に負えない、そういう状態です」
「それならフォーマットしてOS再インストールすればいいよ」
「うん。うん……ええと、それはつまりどういう状態?」
「人生☆リセット?」
「ないから。人生にそんなボタンはないから。あるのは押したら二度と復帰できない電源ボタンだけだから」
「まあ、それでもいいんじゃない?行き詰っているなら押してみたら?」
「うん、それ死んじゃうからね?君は極めて婉曲な表現で私に死ねと言っているのだよね?」