一ヶ月前の感情を思い出せなくなっていることに気づきました。
別段驚くようなことではありません。
私はそのようにできています。
記憶を保持する機能の傷は自覚しないままきっちりと作用していて、ともすれば色々なことを忘れてしまって、忘れることに慣れてしまって、覚えていない話題でも適当に辻褄を合わせて話すことができるようになってしまって。
また、いつものようにいつもどおりのことが起きています。
過去は自分と繋がっておらずぼろぼろと崩れ落ちるばかりで、未来は茫洋として姿が見えません。
確かな時間は今この時だけ、大切なのは目の前にあるものだけ、それ以上のものを持つことができません。
それが悲しいことなのか幸せなことなのかわかりません。
もはや私にはこれ以外のありかたを想像することができません。
ただ、忘れてはいけないことがあったような気がします。
あのとき私はなにか苦しんでいて、それは重要で必要な痛みで、その原因となったものと向き合うことできっとなにかが変わるのだと思っていたような気がします。
だけれどそれがどのような思考であったのか、辿る記憶は巧く形を成さず雲を?むよう。
忘れてはいけないことがあった、ただそれだけを覚えています。
それが何であったのかはもうわからなくなってしまいました。
そうしてそれで別に困らず、日々は概ね楽しく過ぎていきます。
思考を占めていたものを失くしてしまった今は視界が以前よりも開けていて、星はきれいで食べ物は美味しくて世界は楽しみに満ちていて。
それらを愛でることに手一杯で、記憶を辿ることにまで手が回りません。
確かに何か、忘れるべきでない大切なものがあったのに。
あのときの私はしっかりとそれを見据えていたのに。
とはいえ現在を楽しむことに注力するのは正しいありかたです。
常に過去より現在こそが優先して処理されるべきです。
だから今は目の前にあるよいものを充分に大切にしたいと思います。
それがいずれ忘れられてしまう時間であっても。