速く走ろうと思ったら独りにならなければならない。ひとりで速く速く遠く遠くへ行くことはたしかにとても魅力的なことなのですが、そうはすまいと思いました。
孤独だからいいんだ。孤独だからこそ速くなれる。孤独だからこそ遠くまで行ける。
(舞城王太郎『SPEEDBOY!』)
ひとりで遠くに行ったきり帰って来れなかった天才は狂人と見分けがつきません。
そうなることはきっととても幸福なことですが、そうなりたいとは思えません。
凡人たる自分はそうなるべきではないと思っています。
ひとりでどこかに辿りついて、誰にもそれを伝えずに朽ちていくことに意味はありますか。
それで自足することができますか。
誰にも伝わらなくてよいのだと思い切れるほど無欲にはなれず、かといって多くのひとに自分の見た場所を伝えたいと願うほど貪欲にもなれません。
たったひとり、あなたに伝われば、もうそれだけで満足なのです。
せめてそのくらいには欲深くあろうと思っているのです。
どこに行くとしても、そこで得たものをあなたに伝えようとすることを忘れてはなりません。
そうしてなにより、ひとりでは決して辿りつけない場所があることを忘れてはなりません。
孤独であればあるほど速度は増すけれど、鋭さの代償に削ぎ落とされるものは少なくないのです。