お元気ですか、外は寒いですがあなたのいる場所はいかがでしょうか、こちらは手先が冷えて頭だけがやけに熱い心持です、たぶん室温とは関係無しに。それにしても私は語るべき言葉を持ちません、全く書くべきことがないように思えるのです、普段こういう書き出しの文章を見ると言い訳がましいなあそれならば無難に沈黙を守ればよいものをと思うものなのですが。それでも何かを書かずにはいられない気分というのがあって叫びださずにはいられないような夜があって意味もなく散歩に出かけたりそれにしても私以外にも同じ場所に行って泣いていた子がいたというのには心から驚きました、どうして追い詰められるとみんな同じ場所に行くのでしょうねあなたもそこに行きましたか、あの景色を見たことがありますか。そうそうそうそうそう書いては消し書いては消し、書くべきではないような文章を打ってしまいそうになるのがきっとこういう企画の恐ろしさ、時間と一緒に文字を流すというのはとてもこわいことなのかもしれません。ところで私は思いの外鍵盤を打つのが下手でこうしている間にも「じういyんかすうおえkhjgはおいうkjlkぢうr」みたいあなはんpぅkああまたですね、こういう謎の文字列を打ちそうになってしまうのですがこれはあえて直さずにそのまま置いておいたほうが臨場感があってよいのでしょうか、しかしそれでは本当に意味を為さない。テキストではなくただの文字の塊になってしまうと思うのふぇ素がほらふぇ素ってなんですか全く。ですが。ですがの打ち間違いです、すみません、なんだか私はBSキーばかり打っている気がします。取り消してばかり取り消してばかり、何かいい比喩が思いつきそうだったのですが無理でした。そういうものです。そうそう素敵な文章ばかりが思いつくわけもなく、そうそう伝えるべきことがあるわけでもなく、だけれど何かを書かずにはいられないというのはなんなのでしょうねなんなのでしょうね、あなたに何を伝えようというのでしょうねそう私はあなたに向けて手紙を書いていますそういえば先ほど書きかけのメールの下書きが出てきました、読み返した後削除しましたがあれは結局送信したメールであったのかそれともあのまま葬ってしまったものであったのかそれが思い出せません、どちらにしても返事は来なかったのですが。私はあなたに向けて手紙を書いています、ここには私とあなたしかいないのです、たった一人に向けてしか文章を書くことができないと、なぜだかそのように思っています、読むのはあなたひとり。たくさんの皆さんに向けた手紙がどれほどの説得力を持つでしょう、あなた以外の誰に私の言葉が届くでしょう、だから私はあなたに向けて手紙を書きます。それは祈りのような祈りのような祈りなのかもしれません、他者がいるなんて幻想に過ぎないのかもしれません、届くような言葉はどこにもないのかもしれません、伝わらない伝わらない祈りは届かない、報われない帰ってこない返事は返ってこない。それでも手紙を書きます、書かなかった言葉は胸の裡に固まって毒になると思うのです、それが自分の内側を蝕んで病んでいくように思えるのです、それはまったくどうしようもなく自然な現象で。手紙を書きます、それ以外に伝える術はないのですからいいえ、伝えることは目的ではないのかもしれません、ああそれにしても書く事自体に関して言及した文章はほんとうにつまらない。切迫しているきもちがあるのですが、それをそれそのものをここに具体化させることはどうしてできないのでしょうね、言葉以外にどのような手段ももたないように思えるのに言葉というのは実に貧弱ですね、どのような言葉を尽くしても慰めることのできない痛みが、誰かが一晩傍にいてくれるだけで癒えてしまったりするのですよねそういうものです、言葉が弱いのでしょうか傍にいるというだけのことがとても強いのでしょうかおそらくはその両方、だから私はあなたに向けて手紙を書きます、あなたの傍に誰もいなかったとしても、言葉で寄り添えるならそれが何かの慰めになるならそれは幾許かの役に立つ、よいものなのだと思えますから。あなたの裡にあるものしか私には書き出すことができなくて、共感可能な最も単純なひとことはきっとこれなのだと思うから、ああ、私は、ほんとうに、寂しい。