蜘蛛と、銀色のなめくじとそれから顔を洗ったことのない狸とはみんな立派な選手でした。タイトルは同じく宮沢賢治、『革トランク』から。
けれども一体なんの選手だったのか私はよく知りません。
山猫が申しましたが三人はそれは実に本気の競争をしていたのだそうです。
一体なんの競争をしていたのか、私は三人がならんでかけるところも見ませんし学校の試験で一番二番三番ときめられたことも聞きません。
一体なんの競争をしていたのでしょう、蜘蛛は手も足も赤くて長く、胸には「ナンペ」と書いた蜘蛛文字のマークをつけていましたしなめくじはいつも銀いろのゴムの靴をはいていました。また狸は少しこわれてはいましたが運動シャッポをかぶっていました。
けれどもとにかく三人とも死にました。
(宮沢賢治『蜘蛛となめくじと狸』より)
こういう言葉の流れがいったいどこから出てくるのかと、あらためて感心。
大層巧みな言葉の扱い方をしながら、ほんとうにひどい、救われないおはなしをとても真面目に書かれるものですから、読んでいてなんだか息苦しくなります。
このような目と思いを持っていては、さぞ生きるのが苦しかったことでしょう。
なお、引用元はちくま日本文学全集の『宮沢賢治』です。