小説のキャラクターになりました。
知人が出版した小説に、私をモデルにしたキャラクターが登場しているのです。
出版後に、知人から「出てもらったよー」の言葉と一緒に本を渡され、少々狼狽しました。
架空の物語の中に、私とあだ名も口調も癖も同じで、かつて私が話したのとそっくり同じ台詞を話している人物が生きているのを見るのは、なんとも、奇妙な感じのすることでした。
思えば私は、ちいさい頃から本が好きで、物語の世界の中にいる時間のほうが、そうでない時間より長いような子供でした。
漠然と、物語に関わって生きていきたい、と思ってはいましたが、小説家を志しはしませんでした。
物語を愛していましたが、自分からなにかを語る必要を感じませんでした。
物語の作者ではなく、登場人物になりたかったのです。
ずっと物語の世界に遊んでいたい、というのが、無理と知りつつ消しがたい夢でした。
叶わないと思っていた夢が、叶ってしまったような心持ちです。
私がいなくなった後も、物語の中の『私』は、紙の中で生きているのでしょう。
その様子をすこし想像して、本を閉じて、物語のない場所に立ち返ります。